武士の一分

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武士の一分
9

藩主の毒見役を仕事とする下級武士の誇り高い生きざま

江戸時代の武士は、今のサラリーマンより厳しい制約とルールの中で生きていたんだなあと思う。藩主が食べる食事に毒が入っていたというだけで、それは故意の毒殺の謀でなく事故でも責任者は切腹となってしまう。誇りと責任の上に命があり、それは現在より簡単に捨てたり命をかけたりできた価値観の中で生きていたんだなあと思う。親戚関係、仕事仲間の付き合いなど現在とよく似た人間関係も描かれる。おせっかい、同僚の気遣い、慎ましく暮らそうとする者にとって、いつの時代にも煩わしい人間関係は付きまとう。この時代の武士たちが守ろうとしていたのは、体裁や名目ではなく人間として誇り高く生きる事ではなかったか。盲目となった自分を助けるために他の男に身を任せた妻、しかもそれはだまし討ちのような手段であった。それをどうしても許すことができず、妻のためにも盲目ながら剣をとって、自分の上司を切りに行く。盲目となった自分の体を憐れまれて生きながらえるより、死を覚悟で人間としての誇りを守ろうとする、残りの自分の人生後悔しながら生きるより筋を通して凛としたその生きざまに心打たれるものがあった。損得勘定で生きる人が多いなか、胸のすくような映画であった。