エンジェルフライト 国際霊柩送還士（小説・ドラマ）とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』の概要

『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』とは、2023年3月17日よりAmazon Prime Videoにて配信中の日本のドラマ。主演は米倉涼子、他主要人物として松本穂香、城田優、向井理、遠藤憲一が出演している。脚本は『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』などで知られる古沢亮太。原作は佐々涼子によるノンフィクション小説で、2012年11月26日に集英社から単行本が発売、2014年には集英社文庫より文庫化された。佐々は本作において、2012年にノンフィクション作家の登竜門として位置付けられる「第10回開高健ノンフィクション賞」を受賞している。
海外で亡くなった日本人を日本の家族の元に送り届ける「国際霊柩送還士」という実在の仕事を描く物語。主人公の伊沢那美（いざわ なみ）は国際霊柩送還を担うエンジェルハース社の社長。故人と遺族には最大の敬意を払い、やれることはどんなことでもして故人を家族の元に返すという信念をもって働いている。故人の人生と遺族の思いを、那美を始めとする個性豊かなエンジェルハース社の社員を通して、涙と時には笑いも交えて描くヒューマンストーリーである。

『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』のあらすじ・ストーリー

エピソード1・スラムに散った夢

エンジェルハースは海外で亡くなった日本人の遺体を、日本の家族の元へ送り届ける「国際霊柩送還」を担う会社だ。新入社員の高木凛子（たかき りんこ）は社長である伊沢那美（いざわ なみ）に振り回されながら、個性的な社員たちと共に日々を送っていた。
ある時フィリピン・マニラのスラム街で杉原陽平（すぎはら ようへい）という日本人青年が暴行死させられた。陽平の父親による遺体確認も終わり、エンジェルハースによって遺体は日本に搬送されることになっていた。しかし搬送日の前日、遺体が忽然と姿を消してしまう。更に父親が「遺体がないならないで良い」とまで言いだす。
那美は凛子を伴い、マニラで陽平の両親と面会する。陽平は高校を中退後、仕事も長続きせず、挙句に不適切な動画投稿で大炎上し建築家である父親のキャリアを潰したため、勘当同然だったのだ。那美は「最後に一目お会いしてお別れをされた方がいい、後で絶対に後悔する」と父親に言った。母親は遺体が見つかったら返して欲しいと那美に頼み、陽平の遺体の捜索が始まった。
日本大使館員の村井（むらい）と共に陽平が暮らしていたスラム街にやってきた那美と凛子は、陽平の遺体が彼の仲間たちの元にあることを知る。親はいないと陽平から聞いていた仲間たちは、自分たちの手で彼を弔おうとしていたのだ。那美が遺体を両親に返してやって欲しいと懇願し、陽平の遺体は日本に戻ることになる。彼の遺体は、エンジェルハース社員の手によって綺麗な姿になり両親の元へ届けられた。そこで那美は両親に陽平がギャングになったわけではなく、若者を集めて農園を作り、彼らに収入を得させようとしていたこと、彼が家を出る時に母親が荷物に忍ばせた手紙を握りしめて亡くなっていたことを伝える。両親は涙を流し、陽平を迎え入れた。
帰宅した那美は、家で待っていた男性から労いを受け「早く籍を入れよう」と手作りの指輪を渡される。しかしそれはソファで眠る那美の夢であり、彼女の胸元にはペンダントトップとしてその指輪が輝いていたのだった。

エピソード2・テロに打ち砕かれた開発支援

アフリカ中部のムバダールにあるホテルで、外国人を狙った銃乱射テロが発生。政府開発援助のため現地で活動していた日本人のうち、6名が犠牲になった。その中には結納を済ませたばかりの鎌倉綾（かまくら あや）、妻が出産を控えている田所幸一郎（たどころ こういちろう）、最年長でこのプロジェクトを最後に引退予定の松木源次（まつき げんじ）がいた。
那美と凛子、エンジェルハースの事務担当・松山みのり（まつやま みのり）は遺体搬送と遺族のケアのため、ムバダールへ向かう。しかし遺体の状況はひどく、すぐに故人と会えない遺族たちは凛子にやり場のない怒りをぶつける。凛子はそんな遺族たちにどう接して良いか分からず戸惑う。
遺族らは故人が生活していた場所を訪れ、生前の姿に思いを馳せる。幸一郎の父・勲（いさお）はネット上で寄せられる誹謗中傷に心を痛め、特に遺体の損傷が激しかった綾の両親・悟志（さとし）とさおりは現地で娘に会えないことに肩を落としていた。天涯孤独になってしまった源次の妻・加奈子（かなこ）は現地での面会も早々に終わらせるなど、現実を受け入れきれないでいた。
その後遺体は日本に搬送された。遺体修復担当の柊秀介（ひいらぎ しゅうすけ）により損傷のひどい遺体も生前の姿に近い状態に修復。那美たちは遺体をそれぞれの遺族の元に送り届ける。加奈子は夫に寄り添い、悟志とさおりは綾の婚約者・文也（ふみや）と共に綾に結婚指輪をはめる。勲は葬儀場に押し寄せたマスコミに対し、幸一郎の名誉を守るべく「息子はただ人様の役に立ちたい、という一心で今の仕事に就きました。私はそんな息子を誇りに思います」とカメラの前で語るのだった。

エピソード3：社葬 vs 食堂おかめ

K-POPアイドルのコンサートのため韓国を訪れていた吉崎恵（よしざき めぐみ）が大動脈瘤破裂によりホテルで急死。偶然ソウルに居合わせた那美と凛子が、恵の遺体を日本へ搬送することになる。しかし台風が直撃し日本行きの飛行機は相次ぎ欠航。なんとか棺を載せる便を確保した那美に、エンジェルハース会長の柏木史郎（かしわぎ しろう）から別の遺体を優先するよう命令が入る。その遺体は恵と同じ頃ソウルで急死した有名企業・紳士服オーナミ社長の大波大介（おおなみ だいすけ）という男性だった。オーナミ総務部長である井村将司（いむら しょうじ）が、葬儀に遺体搬送を間に合わせるよう急遽柏木に頼み込んできたのだ。しかし那美は大企業の社長を優先させろという命令に納得できず、2人とも搬送すると言い出す。
その頃井村は恵の遺体だけが搬送され、大波の搬送が葬儀に間に合わないと思い肩を落としていた。2人は幼馴染で仲の良い親分と子分のような関係だった。子供時代の井村は「大人になったら社長になる。葬式には総理大臣を呼ぶ」と豪語し、大波はそんな彼を尊敬の眼差しで見つめていた。大人になった井村は事業で失敗して自殺を図るほど追い詰められたが、偶然大波と再会し、社長となっていた彼の計らいでオーナミで働くことになったのだ。それゆえ井村は「大波の葬式にも総理大臣を呼ぶ」と決めていた。過去を思い出しながら斎場でうなだれる井村のところへ、那美が大波の遺体を届けにやってくる。井村と社員たちで棺は斎場に運び込まれ、葬儀は無事執り行われることになった。「社長、俺を拾ってくれて本当にありがとうございました」と井村は大波の顔を見つめながら涙を流す。
一方、恵の葬儀に美紀子（みきこ）とその母・初江（はつえ）という2人の女性が訪ねてきた。恵はソウルでコンサートのチケットを無くしたという初江と、仕方ないから帰ろうと話している美紀子に会い、自分のチケットを彼女にあげていたというのだ。子供たちにコンサートはとても楽しかったと電話で話していた恵だったが、それは自分を韓国に行かせてくれた子どもたちへの嘘だった。自分のことはいつも後回しにしてきた恵。子供たちは「それもお母さんらしい」と笑い飛ばし、彼女を偲んだ。

エピソード4：アニメに憧れたベトナム人実習生

縫製工場で働いていたベトナム人実習生の女性・スアンが交通事故で亡くなった。那美が警察からスアンの遺体を引き取った帰り、スアンの同僚だったという上田礼人（うえだ あやと）がスアンの遺体を車ごと奪い、工場の倉庫に立てこもってしまう。那美は上田を説得するしようとする中で、立てこもりの原因が「工場長による外国人労働者への差別」であることを知る。工場長の垣内（かきうち）は賃金の支払いを滞納しており、那美は彼らの代わりに垣内に迫る。スアンの同僚たちも加わり、賃金の支払いと労災申請をするまで仕事をしないとストライキを起こす。そして垣内は彼らへの賃金支払いを渋々了承した。アニメ好きだったスアンとひっそりと漫画を描いていた上田は交流があり、彼はスアンたちが受ける差別を許せなかったのだ。同僚たちはスアンのお別れ会を開き、彼女の父も日本に招く。父は「もっとずっと一緒にいたかった」と涙を流しながら別れを告げた。スアンは父の60歳の誕生日プレゼントとして、赤いベストを用意していたのだった。
一方、凛子とエンジェルハース社員の矢野雄也（やの ゆうや）は、アメリカ旅行中に事故死したW不倫カップル・梶原誠二郎（かじわら せいじろう）と大久保里美（おおくぼ さとみ）の遺体搬送を担当していた。誠二郎への憎しみが募る妻・純子（じゅんこ）に対し凛子は「憎んだままでもいいんじゃないでしょうか？でも、ちゃんと送り出しませんか？じゃないと奥様が後悔することになります」と声をかける。純子は「さっさと葬式を済ませて、私もいい男を見つけるわ」と吹っ切れるのだった。

エピソード5：那美vs究極の悪女

モロッコの大富豪・サリムの後妻である日本人女性リリーが帰国する。彼女は今まで保険金目的で高齢の大富豪と結婚し続け、夫を殺してきたのではないかという連続保険金殺人の疑惑がかけられていた。
そしてリリーと共に来日したサリムまでもが、ホテルで睡眠薬を飲んだ状態で死亡しているのが発見される。世間はリリーがまたもや夫殺しをしたと騒ぎ立てた。彼女の悪態をつく姿は、周囲の人々の疑念をより強くする。しかし遺体搬送を担当した那美は、彼女が世間で言われるような悪女ではないことに気づく。
サリムは認知症を患っていて、亡くなった第一夫人のナディアにリリーを重ね合わせており、いつもリリーのことをナディアと呼んでいた。日本には新婚旅行で来ていた2人だが、ホテルでサリムは突然リリーのことがわからなくなり混乱、揉み合いになる。その時リリーが身につけていたナディアのネックレスを、サリムが引きちぎってしまい、怒った彼女は彼の首を絞めた。しかしサリムの本当の死因は、認知症の薬を服用して風呂に入り溺死したというものだった。
彼を心から愛していたリリーは那美に説得され、彼との別れに応じた。そこへ警察がサリムのスマホを持って入ってくる。それにはリリー宛のメッセージ動画が入っていた。サリムが初めて彼女をリリーと呼び、彼女への謝罪と感謝の言葉が綴られたものだった。
動画を見て涙を流すリリーだったが過去の詐欺事件で逮捕状が出ているとされ、警察に連行されてしまうのだった。

エピソード6：母との最後の旅

凛子の母・塔子（とうこ）がボリビアで亡くなったという知らせが届いた。彼女はガンで余命数ヶ月という宣告を受けていたため、最後の力をふり絞り思い出の場所を巡る旅行に出掛けていたのだ。
塔子は自身の子どもを愛することができなかった。凛子もまた愛されず認められないこと、母から冷たい眼差しを向けられたことがトラウマとなっていた。
凛子は那美と共にボリビアのモコモコにある塔子が亡くなった病院へ向かう。塔子の枕元にはバケットリストが残されており、「若返って美人になる」「愛する男に抱いてもらう」という2項目が未達成のままだった。塔子は死の3週間前、凛子が出張中のエンジェルハースをと訪ね、娘の仕事ぶりを社員たちから聞きながら、そのバケットリストを作っていた。
日本に搬送された塔子は凛子によって処置される。綺麗になった塔子を見て那美はリストの「若返って美人になる」という項目に丸をつけた。更に「愛する男」を「愛する娘」に書き換え、最後の項目も丸がつけられた。そして塔子が持っていた彼女と幼い凛子が写った写真の裏には「娘に迷惑をかける」という項目が書かれていたのだった。

『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』の登場人物・キャラクター

主人公

伊沢 那美（いざわ なみ／演：米倉 涼子）

エンジェルハース社長。2人の子持ちで8年前に恋人を亡くしている。破天荒で口が悪く、物事をズバズバ言う性格。故人や遺族に対しては最大の敬意を払い、必ず遺体を家族の元に帰らせるという熱い信念を持って仕事に臨む。

「エンジェルハース」の社員

高木 凛子（たかき りんこ／演：松本 穂香）