スウィング・キッズ(2018年の映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『スウィング・キッズ』とは韓国で2018年、日本では2020年に公開された韓国映画。舞台は朝鮮戦争中の1951年の巨済(コジェ)捕虜収容所。新しく赴任した所長は収容所の対外的なイメージメイキングのために、戦争捕虜たちによるダンスチーム結成プロジェクトを計画する。南(韓国)、北(北朝鮮)、アメリカ、中国出身者からなる、ちぐはぐな寄せ集めダンスチームは果たして公演を成功させられるのか。監督は『サニー 永遠の仲間たち』のカン・ヒョンチョル。主演は人気K-POPグループEXOのD.O.。

『スウィング・キッズ』の概要

『スウィング・キッズ』とは、1951年の巨済(コジェ)捕虜収容所を舞台に、ダンスの情熱だけで団結した寄せ集めダンスチーム「スウィング・キッズ」の誕生ストーリーを描いた映画である。原作となったのは、ミュージカル『ロ・ギス』。

『ロ・ギス』は朝鮮戦争当時、従軍記者ワーナー・ビショフが撮影した1枚の写真から生まれた。巨済(コジェ)捕虜収容所で仮面をかぶり、捕虜たちが自由の女神像の前で踊っているという写真だ。

映画『スウィング・キッズ』は創作ミュージカル『ロ・ギス』をモチーフに、カン・ヒョンチョル監督が再創造した映画である。朝鮮戦争という最も悲しい歴史と、ダンスという最も胸がときめく題材の異質の組み合わせにより、かつてない面白さと見どころのある映画が誕生した。
それぞれの理由でダンスチームに合流した南(韓国)、北(北朝鮮)、米(アメリカ)、中(中国)の5人のキャラクターの愛らしい個性とアンサンブルは愉快な笑いを生み出し、ダンスへの情熱ひとつで足並みを揃えていく物語は、ドラマチックな展開で楽しみを広げてくれる。そこへ、若い俳優たちが醸し出す爆発的なエネルギー、聴いているだけで胸が躍る超大作級の名曲の数々、タップダンスの華麗なパフォーマンスが加わった『スウィング・キッズ』は、これまでにみたことのなかった韓国映画の新しい幕を開け、観客は自然に体でリズムをとる。

異なるイデオロギーで分断され、激しく対立した悲劇の歴史のなかで、国籍、言葉、全てが異なるにもかかわらずダンスへの夢に向かってひとつにまとまっていくチーム。チームの少年少女らの姿を通し、戦争の犠牲にならざるを得なかった人々の情熱と幸せ、葛藤と苦しみについて観客に問いかけ、重厚な余韻と深い感動を届ける作品である。

『スウィング・キッズ』のあらすじ・ストーリー

捕虜収容所でダンスチーム結成

1951年、朝鮮戦争中の韓国。朝鮮戦争当時に最大規模だった巨済(コジェ)捕虜収容所に、新しく所長が赴任した。所長の目的は、北朝鮮の捕虜たちに自由主義の魅力を味合わせ、南(韓国)に残りたいと思わせること。
新しい所長の指示で釈放されたのは1番の厄介者ロ・ギス。戻ったロ・ギスは仲間たちから熱烈な歓迎を受ける。
「敵の物資を減らす作戦だ」と言う友人のマンチョルと貯蔵庫に侵入したロ・ギス。貯蔵庫から覗いた講堂で、黒人のアメリカ兵がタップダンスを踊る様子を目にし、心を奪われてしまう。

収容所の米兵たちは夜な夜な講堂でダンスパーティを開いていた。パーティの参加者は楽器が弾ける捕虜や、近隣に住む女性たち。
貯蔵庫からの脱出に失敗したロ・ギスはパーティに迷い込んでしまい、そこで見事なコサックダンスを披露する。
しかしロ・ギスに恨みを持つジェイミーに見つかり、あわや乱闘になりそうになるが、一人の若い女性ヤン・パンネの見事な英語の歌をきっかけに、その場はうやむやになる。
ヤン・パンネの歌をきっかけに大いに盛り上がる会場だったが、酒で濡れたコンセントがショートし、講堂は火に包まれてしまう。
火事の原因を聞いた所長は、収容所の対外的なイメージアップのため、戦争捕虜たちによるダンスチーム結成プロジェクトを計画する。共産主義の捕虜たちによる、自由主義の象徴「タップダンス」は、良いアピールになると考えたのだ。
ダンスチームの立ち上げを担当するのは、元ブロードウェイのタップダンサー、ジャクソン。ジャクソンはダンスメンバー募集のオーディションをするが、期待していたようなメンバーはなかなか集まらないのだった。

国籍もイデオロギーも違う4人が集まり、ダンスチーム「スウィング・キッズ」が結成される

集まったメンバーは、収容所で一番のトラブルメーカーのロ・ギス、4ヶ国語を話せる無認可の通訳士ヤン・パンネ、生き別れた妻を探すために有名になることを望む愛に生きる男カン・ビョンサム、見た目からは想像できないダンスの実力をもつ栄養失調の踊り手シャオパン、そして、彼らのリーダーであり元ブロードウェイのタップダンサーのジャクソン。それぞれ南(韓国)、北(北朝鮮)、米(アメリカ)、中(中国)出身の彼らは国籍だけでなく言葉、イデオロギー、ダンスの実力すべてが異なっている凸凹のダンスチームだ。
ロ・ギスは当初ダンスチームに入るつもりはなかったが、元からダンスの才能があったためか、ジャクソンから強く加入を勧められる。反発するロ・ギスだったが、ジャクソンの踊るタップダンスに次第に魅了されていく。
ある日、ダンスメンバーはジャクソンが闇商人から入手したタップシューズを渡される。興奮するメンバーだったが、ロ・ギスの分はなかった。ジャクソンはロ・ギスに「ダンサーだけだ、チンピラは例外。」と告げる。
ふてくされて講堂を飛び出したロ・ギスはアメリカ兵たちに倉庫に連れられ、そのままダンスバトルを申し込まれる。困惑するロ・ギスだったが、ヤン・パンネ、カン・ビョンサム、シャオパンが倉庫を訪れ、4対4のダンスバトルが始まる。バトルに勝利するロ・ギス達だったが、最終的に乱闘になってしまう。ジャクソンが助けに来たことで乱闘は収まるが、アメリカ兵の怒りは収まらず、ジャクソンは闇商人との取引現場を抑えられてしまう。ジャクソンが受け取った紙袋の中に、反米のビラが混じっていたのだ。逮捕されたジェイミーは、本国に送還されそうになってしまう。

ジャクソンの解放とダンスチームの再結成

「収容所にアメリカから記者がやってくる。」という情報を聞いたダンスメンバーたちは、記者たちの前で踊ることでダンスチームの復活とジャクソンの解放ができると考える。
仮面をつけ、衣装を身につけた3人は、アメリカ記者や収容所の捕虜たちの前でダンスを披露する。
泥に足を取られながらアメリカ風のダンスを披露したロ・ギスとビョンサムとシャオパンは、会場中から笑われると同時に喝采を受ける。
興奮する記者たちに、所長は「クリスマス公演がある予定だ、新聞に載せてくれ」と話す。後に引けなくなった所長は、ジャクソンを解放することにする。
講堂に戻った所長を待つのは、ダンスチームのメンバーとロ・ギス。4人は息の合ったダンスを披露し、ジャクソンの帰りを歓迎する。
さらに、ジャクソンは所長から沖縄への人事異動を告げられる。クリスマス公演に成功したら、家族のいる沖縄へ行けることが決まったのだ。
ロ・ギスは複雑な思いを抱えていた。仲間たちと反米活動をしている手前、タップダンスに夢中になっていることはもちろん、アメリカで踊るなんてもってのほかなのだ。
そんなロ・ギスにカーネギー・ホールの写真を見せたジャクソンは「全員でこの舞台に立つんだ」と語りかけるのだった。

兄ロ・ギジンの来訪

クリスマスのイベントでダンスを披露することが決定したダンスチームはますます練習に磨きがかかっていく。
あるとき収容所に新たに戦争捕虜が連れて来られる。その中に、ロ・ギスの旧友グァングクがいた。
グァングクは、アメリカに染まり共産主義への強い思いを捨てつつある捕虜たちに強い反発心を抱き、収容所内で同胞たちを集め始める。
強い指導力を持ったグァングクは所内の反乱分子を次々に襲っていくが、所長の指示によって殺されてしまう。
ある日、ヤン・パンネの暮らす村を訪れたジャクソンは、同じ国民たちが思想の違いで傷つけ合っている様子を目にしてしまう。
言葉を失うジャクソンだったが、ヤン・パンネはイデオロギーの違いさえなければ殺し合いも起こらなかったのに、と憤る。ヤン・パンネ自身、両親を亡くしてから幼い兄弟を食べさせていくために必死に働いてきたのだ。
「シューズを履けば、戦争も食べる心配も全部消える」と言うヤン・パンネは、思いを吐き出すかのように一心不乱に踊り始める。
ロ・ギスも反米精神とタップダンスへの想いに揺れ、鬱屈した思いを抱えていたが、講堂で無心になってタップダンスを踊ることで次第に心が解放されていく。

ある日、収容所に戦争の英雄であるロ・ギジンが現れる。ロ・ギジンはロ・ギスの兄で、肉弾戦で最も見事な戦い方をした兵士だったという。
北朝鮮側の幹部が収容所内にいると勘づいている所長は、炙り出すためにロ・ギジンを釈放することに決定する。
ところが、北朝鮮の幹部の正体はロバート所長の取り巻きをしている男サムシクだった。元俳優だったサムシクはその演技力をいかし、所長のそばにいる頭の悪い男としてずっと潜入していたのだ。
サムシクはクリスマス公演の終了後に所長を殺すようロ・ギスに指示を出す。

クリスマスのイベントで起こった悲劇

ビョンサムの妻、メファはわずかな食糧や金銭と引き換えに身体を売っていた。子供から石を投げられ否定されることもあったが、懸命に生きていた。
ヤン・パンネがメファを見つけ出し、自宅に連れ帰ることに成功する。そのことを聞いたビョンサムは涙を流し喜ぶのだった。

クリスマスイベント当日、スウィング・キッズの「Sing Sing Sing」に合わせたタップダンスは観客を沸かせる。完璧に揃ったダンスは、それぞれのイデオロギーを超えて、観客の心を震わせる素晴らしいものだった。
予定のダンスが終わり、一度袖に戻るメンバーだったが、ロ・ギスは一人舞台に戻ってくる。一人無心で舞台で踊るロ・ギスのダンスは素晴らしく、ジャクソンは彼がカーネギー・ホールで踊っているかのような錯覚を見る。
大喝采を浴びるロ・ギスは所長を殺す武器を取るために舞台裏に向かうが、兄ロ・ギジンに止められる。ロ・ギジンは舞台に上がると、米兵たちに向かって銃を乱射する。 米兵達は応戦し、狂ったように銃を乱射していき、ロ・ギジンを始め、ヤン・パンネ、カン・ビョンサム、シャオパンの3人も射殺されてしまう。3人に駆け寄ったロ・ギスも足を撃ち抜かれてしまう。米兵に羽交い締めにされたジャクソンは、ただただ泣き叫ぶことしかできなかった。

数十年後、団体客が巨済収容所を訪れる。戦後、収容所は歴史遺跡として残されていたのだ。団体客の中には年老いたジャクソンもいた。
当時のまま保存された講堂を訪れるジャクソン。舞台の床に触れ、自身の唯一の仲間だったロ・ギス、ビョンサム、シャオパン、ヤン・パンネとの時間を思い出すのだった。

『スウィング・キッズ』の登場人物・キャラクター

主要登場人物

ロ・ギス (演:D.O. <EXO>)

前線の英雄として活躍する兄をもつ。捕虜収容所の中でも卓越した存在。ジャクソンが踊るアメリカのダンス「タップダンス」を偶然見てしまってからというもの、昼夜、高鳴る心臓の鼓動を抑えきれない。隠れてタップダンスを練習し、ジャクソンへの挑戦を繰り返しているうちに、いつしかスウィング・キッズの一員となり、タップダンスへの情熱を燃やしていくのであった。捕虜収容所でもスウィング・キッズでもトラブルメーカーとして周りを巻き込んでいく。

ジャクソン (演 :ジャレッド・グライムス)

画像左がジャクソン。

過去にブロードウェイのステージを渡り歩いていた、元一流タップダンサーの米軍下士官。収容所に新しく赴任した所長の野望に満ちたダンス講演プロジェクトを無理やり担当させられる。メンバー募集をするも志願者たちのダンスの腕は到底期待できないものばかり。紆余曲折の末、なんとかメンバーを集めてダンスチームの体裁を整える。ダンスチームに入る理由もダンスの技術もバラバラなメンバーに挫折しそうになるも、次第に「スウィング・キッズ」の純粋な情熱に同化されていくのだった。

ヤン・パンネ (演:パク・ヘス)

「スウィング・キッズ」の無認可通訳士。戦争の最中、家族の生計を担っていた。誰よりも芯が強く、しっかり者の少女。お金を稼ぐためにダンスチームのオーディションに参加したヤン・パンネはコミュニケーションに困っていたジャクソンに近付く。韓国語から英語、中国語、日本語まで4ヶ国語も話せる卓越した語学力と見事な交渉術で、ダンスチームの通訳士の座を得る。持って生まれた歌の才能と、見よう見まねで覚えたタップダンスの実力を発揮していき、「スウィング・キッズ」に欠かせないメンバーへと成長していく。

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