重版出来!(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『重版出来!』とは2012年から松田奈緒子が小学館『月刊!スピリッツ』に連載中の青年漫画。週刊コミック誌『バイブス』の編集部を舞台に、主人公の漫画編集者・黒沢心が一癖も二癖もある漫画家たちや出版業界に関わる様々な業種の人々と一冊の本を生み出すため奮闘するお仕事漫画。2016年には黒木華主演でTBS系列にてドラマも放映。脚本は映画『図書館戦争』シリーズなどで知られる野木亜紀子。後に『逃げるは恥だが役に立つ』、『アンナチュラル』などのヒット作も手掛ける。

『重版出来!』の概要

『重版出来!』とは、2012年から松田奈緒子が『月刊!スピリッツ』に連載中の青年漫画。舞台はコミック誌『バイブス』の編集部。異色の経歴を持つ新人漫画編集者・黒沢心を主人公に編集者と漫画家とのコミック作りにかける情熱だけでは済まされない悲喜こもごもを描く。「仕事マンガランキング」(日本経済新聞社)第1位、第62回小学館漫画賞(一般向け部門)受賞など、仕事マンガとして幅広い層に支持されている。
また2016年4月12日から6月14日までTBS系列にてドラマも放送。全10話。脚本は野木亜紀子(『図書館戦争』シリーズ・『俺物語‼』)、演出は土井裕泰、福田亮介、塚原あゆ子。プロデューサーは那須田淳(『コウノドリ』・映画『ビリギャル』)、東仲恵吾吾、八尾香澄。黒木華が主人公を主演を演じ、出版社・印刷業者・デザイナーや書店員など様々な出版に携わる人たちにもフィーチャーしており出版業界の裏側も知ることができる。
オリンピック出場選手の候補として柔道に打ち込んでいた主人公・黒沢心はケガのためその夢を断たれた。しかし自分が何をしたいのかと問うた時、子どもの頃読んでいた『柔道部物語』を思い出したのだ。主人公たちの辛さや喜びを一緒に味わうことで実生活を頑張ることができた。心は「私もそういう作品を作りたい!世界の共通語となる漫画作りに参加して、地球上のみんなをワクワクさせたい!」と編集者を目指す。アクの強い編集者の面々、初めて担当すること緒になった新人漫画家、芽が出ないアシスタント、重鎮と言われる漫画家の苦悩など様々な人間模様が展開していく。

『重版出来!』のあらすじ・ストーリー

黒沢心参上!

漫画界重鎮の葛藤

心と先輩編集者の五百旗頭(いおきべ)は、人気漫画『いつでもハニーむう』のオーノヨシヒトとの打ち合わせに向かった。オーノは締め切りはしっかり守る律儀な性格で、漫画界の重鎮の一人である三蔵山龍(みくらやまりゅう)の元アシスタントでもあった。
次に心と五百旗頭が向かったのは、その三蔵山の自宅兼作業場だった。本物の三蔵山に会えたという感動で胸がいっぱいになる心。しかし、その日の夕方、編集部に三蔵山から「原稿を引き上げたい」と連絡が入る。
アシスタントとトラブルになった事をきっかけに初めて知った、「オワコン」「時代遅れ」という読者の声に漫画家の引退を考えたというのだ。朝の段階では3か月分の原稿を用意していた彼の突然の申し出に編集部内は騒然とする。
そこへ買出しに出かけた心が、出版社のエントランスで会ったというオーノを連れて編集部に戻ってくる。三蔵山から酷く落ち込んでいた様子で電話があった為、心配したオーノはそれを編集部に伝えに来たのだった。

そんな中新人研修の時に訪れていた書店で展開されていた「大仏特集」にヒントを得た心は、三蔵山の絵は「描く時の姿勢」の工夫次第で変えることが出来る事を力説し、「先生の絵は狂っていない」と断言する。そんな心の言葉や、駆けつけた漫画家たちの説得に三蔵山は再び筆を執る。

本を売るということ

和田(わだ)編集長は、次回の発行部数を巡り「部数決定会議」の為、営業部を訪れていた。部数を増やして多く売り出したい編集部と、部数を減らして赤字を出したくない営業部のせめぎ合いの場で、和田編集長は「初版5千部では全国に本がいきわたらず、次巻を出すことも危うくなる」と説得する。しかし、営業部の岡(おか)課長に「売れなかったら在庫の山になる。また雑誌を失ってもいいのか」と返され、結局初版5千部で手をうつ事になる。過去にコミック雑誌『FLOW』が廃刊し、雑誌を失うことの重みを味わっていた和田編集長だから、言い返せなくなってしまったのだ。

そんな『FLOW』に興都館の正社員として携わり、雑誌の廃刊で別の部署に異動することになるも、「どうしても漫画を作りたい」という想いからその後フリー編集者に転身した菊池。
そんな菊池が担当する八丹(はったん)カズオの作品が、月に100冊売れているという事が分かった営業部は『タンポポ鉄道』を仕掛けることを決める。この漫画は、都会の会社で働く主人公が忙しい毎日から抜け出し旅に出たその旅先で出会う人々との交流をきっかけに、人間として成長していくという物語だ。初版8千部以下という出版社からは期待されていないスタートだったが、新たなキャラクターの登場をきっかけに少しづつではあるが、売上が伸びてきていた。

心と営業部の小泉は、八丹が持ち込んだ大量の単行本をもとに作った「試し読み冊子」を配る為、書店回りを始める。しかし、書店では『タンポポ鉄道』は目立った陳列はされておらず、心は『タンポポ鉄道』のフェア展開をコミック担当者にお願いする。売上が伸びてきている商品という事もあり、すぐに快諾してもらえた事で安心した心。それに加えて、漫画を読まない人にもアピールしたいと考え、『鉄道フェア』コーナーにも本を置いてもらえるようお願いする。気難しい事で有名な担当者だったが、心の熱意に負け、本を一緒に置いてもらえる事になった。そんな心に対して、ただ立ってるだけの小泉の姿に、コミック担当者は「ユーレイみたい」と彼を笑った。

書店回りの休憩中、「なぜ人は『頑張れ』というのか。自分はそう言われるのが嫌いだ」と小泉は話す。「頑張れ」と言われることに対し心は、「自分は嬉しいと感じる。言ってもらった相手に喜んでもらえるように努力したい」と言い切る。この言葉に、彼女はきっと何度も何度も打ちつけられても「負けない」という情熱でこの強さを身につけたのだと、小泉は気付かされた。その後、営業部に戻った小泉は岡課長の机に広げられた手帳を見てしまう。そこには書店のデータや売筋、顧客傾向などの情報がビッシリと書き込まれていた。本気で仕事に取り組むその姿勢にいてもたってもいられなくなった小泉は一人で書店回りに出かける。

売上好調の『タンポポ鉄道』をさらに売る為、靴が擦り切れるほど書店にも何度も足を運んだ。自分が実際に行く事が出来ない、遠方の書店あての手紙を何通も何通も書いた。もともと情報誌志望で入社した為漫画に興味がなく仕事に対しても消極的で、いるのかいないのか分からないという理由で周りからは「ユーレイ」と呼ばれる小泉。そんな小泉が初めて熱意を持って、この漫画を売りたいと感じたのだ。その努力に予想以上の反響があり、多くの書店が『タンポポ鉄道』を置いてくれることになった。

そして、編集部に1本の電話が掛かってくる。『タンポポ鉄道』に重版がかかったのだ。数日後、行われたサイン会の会場の様子に、売れる漫画というのは「愛される漫画」だと実感する心。小泉もまた、出版社と書店で熱意を持って売ったから「売れた」のだと実感する。一冊の本を売るために、多くの人たちが関わっていることを知った2人はお互いに感謝の言葉を口にする。この『タンポポ鉄道』を売る為に頑張った人たちの話は新聞でも取り上げられ、さらに多くの人たちに、この漫画を知ってもらう良いきっかけになった。

一筋の道

ようやく心は担当を持つことになる。その漫画は『バイブス』に連載中の、人気漫画家の高畑一寸(たかはたいっすん)の『ツノひめさま』。しかし高畑には難点があり、恋人とうまくいかなくなるとやる気をなくしてしまい原稿が荒れてしまう事。例によって、つまらない物語展開のネームを書いてきた高畑に、心は自分が読者だった頃の気持ちを話す。

高畑は心に手渡された次回発売の『バイブス』を何気なく読んでいた。それに書かれていた『ツノひめさま』の「ああ弱い、弱い、弱い、どこかに強い男はおらぬかえ!」という、あおりセリフにハッとさせられた高畑。やる気を取り戻した彼は、読者をワクワクさせる物語のネームを書き上げる。

そんな高畑に、コミック誌『エンペラー』から「先生の他の作品を描いてみないか」と誘いが来る。担当者の誉め言葉に良い気持ちになっていた高畑は『エンペラー』での連載を引き受けることになったが、『ツノひめさま』のように思うように描けず、自信をなくしてしまう。そんな時、いつでも『ツノひめさま』の事を考えてしまう自分に気付いた高畑は、『エンペラー』誌での連載を断ることに。自分が必死に生み出した『ツノひめさま』を描けるように励ましてくれた和田編集長に感謝をしながら、もう他誌には移らずこれからも『ツノひめさま』を描いていく事を誓う高畑だった。

電子書籍の波

当時絶大な人気を誇っていた漫画『タイムマシンにお願い』の漫画家の牛露田獏(うしろだばく)は、その後の新しい作品が描けず消息不明になっていた。そんな彼に電子書籍化と映像化の件を告げる為、連絡の取れずにいた牛露田をやっとの思いで探しだした編集部。
和田編集長、事業部の駒井(こまい)と共に牛露田の住むアパートを訪ねた心。生活は荒れ、生活保護を受けていた牛露田に「電子書籍化と映像化で現在の暮らしぶりも良くなる」と伝える和田編集長。
その説得も空しく「生活のことを考えて漫画描くヤツがいるか」と牛露田に邪険に扱われてしまう。
牛露田のアパートに同居している娘アユは母親を亡くし、学校では父親の件でいじめに合い、無表情になってしまった。

そんなアユを心配した心はファミレスに連れていき話を聞くことに。本が売れなくなった牛露田を支えていた母だったが、やがて心労で亡くなってしまったこと。それでも未だに自分の事を有名漫画家だと思い込み、夢ばかり見ている父親を許すことが出来ないこと。そんなことを話すアユに、心は「アユちゃんのパパは夢を見て、夢を見せてくれたんだよ」と告げ、牛露田の漫画を読んでみる事を提案する。
自宅に戻ったアユは、生前母親が開けてはいけないと話していた箱の事を思い出し、押し入れからその箱らしきものを見つける。中を開けると、そこには写真や漫画の原稿があった。そこへ帰ってきた牛露田と口論になったアユは「あんたが父親なんて恥ずかしい」「生活保護を貰ってるからとかじゃなく、現実を見ないことが恥ずかしい」と言い放つ。「フツーのお父さんになってよ」と懇願するアユの涙と、箱の中の長い年月が経ち黄ばんだ原稿に牛露田はある決心をする。
後日、興都館には電子書籍と映像化の契約をしにきた牛露田の姿があった。契約が終わると「後はよろしくな」と和田編集長に告げる牛露田に、また新しい漫画を描いてくれると淡い期待を持つ面々。

その後、漫画の道具と身の周りのものだけ持って牛露田は失踪した。一度は普通の生活を求めてアルバイトを始めようとも思った牛露田だったが、突然タクシーに乗りこみ「ずっとずっと未来」を目指した。
映像化と電子書籍化をきっかけに出版社にはたくさんのファンレターが届くようになり、アユも学校でいじめられなくなった。しかしアユの心は満たされず、父親がいなくなり、一人ぼっちになってしまった寂しさで涙が止まらなかった。

新人作家ができるまで

『バイブス』編集部に持ち込みの新人たちがやって来た。一人目は大塚という名前の大学生で、今回初めて漫画を描いたという。五百旗頭が原稿を確認している間、大塚は緊張した面持ちでその様子を見ていた。読み終えた五百旗頭が「良い作品だ」と伝えると、大塚は素直に喜んだ。「修正を加えて本誌の受賞を目指してみないか」と提案する五百旗頭の話を真面目に聞く大塚の姿は、心の目から見ても好印象に映った。その後も、数人からの持ち込みがあったが、ソワソワして落ち着かない者、編集者の悪口を言い始める者などその反応は様々だった。

さらなる新人漫画家の獲得の為、同人誌即売会に「コミックバザール出張編集部」というブースを出展した『バイブス』編集部。そこへ自身の漫画を持ち込んできた女子大生の東江絹だったが、「自分がプロになれるわけない」と突然泣き出してしまう。そんな東江に同席していた人気漫画家の成田は、「それを決めるのは君ではない」「君に決められるのは目指すか目指さないか」と話す。真っ直ぐな目で話す成田のその言葉に、東江は「漫画家になりたい」と精一杯の声で言い放つ。

慣れないブース対応で疲れた為休憩に出た心は、あるフリー編集者に声をかけられる。彼は過去に興都館を受験した事があるが、自分は組織には向かないと感じた為、フリーになったのだと言う。そんな彼が口にした「ツブシの安井」という言葉に呆然としてしまう心。彼はすぐに自分のブースに戻ってしまった為、詳しい話を聞き出す事は出来なかった。『バイブス』編集部の安井がなぜそう呼ばれているのか。心の中には不安な気持ちが残った。

『バイブス』のブースに戻ってきた心は、東江の原稿を確認する。東江の漫画は面白いが、内容がBL作品だった為『バイブス』読者に受け入れられない可能性がある。この設定を男女の関係や女性同士の関係に変更すれば、対応も出来ると丁寧に伝える心。この丁寧な対応と、「一緒にデビューを目指しましょう」という心の言葉が、東江にはとても嬉しかった。次にやって来た、無愛想な青年の中田の淡々とした受け答えに戸惑ってしまう心。そんな彼が持ち込んだ漫画は、「人間の可能性をコントロールする概念兵器」をテーマにしたもので、とても重苦しい内容だった。独特な内容の漫画だった事から、心は一時的に原稿を預かることにした。

編集部内では、中田の漫画について話題になっていた。和田編集長をはじめとする部内の面々が口にしたのは「絵が酷い」「怖い」などネガティブなものだったが、菊池は「絵は下手だが構図や見せ方がうまい」と擁護する。それでも「この絵では雑誌に載せられない」と言う和田編集長に、心は「他の漫画家のアシスタントにつけてはどうか」と提案する。そこに割って入ってきた安井の意見は、「そんなもの時間の無駄だ」「今時の絵が描ける漫画家をガンガン使えば雑誌も売れる。本人にも金が入る。それでいいのだ」というドライなものだった。

ある日の編集部では、心と東江が打ち合わせを行っていた。編集者として様々な指摘を行っていく心だったが、初めての他人からの否定的な意見に東江はショックを受けていた。そのショックを引きずる東江に「三蔵山のもとにアシスタントに行かないか」と提案する心。後日、東江は中田と共に三蔵山の現場でアシスタントを体験することになった。実際の漫画家の現場で学びながら、なんとかアシスタントの仕事を終えた2人。その後、東江のもとに『バイブス』編集部から、コミカライズでの漫画家デビューの話がきていた。しかし何度も原稿を指摘され「自分はいつまで直しを続ければ良いのか」と、東江は心に対しての信頼感が薄れてしまっていた。

先日の「出張編集部」の時に再会した同期の社員と共に、多くの編集者やライター達との飲み会に出席した心。そこで話題になったのは「ツブシの安井」の話だった。使い勝手の良い新人ばかりに仕事を振って、使えなくなったら捨てる。安井の担当になった漫画家は、最初は良かったけど、後になって利用されていたのだと気付くという。会社員としては出来る人だが、誰からも慕われない嫌われ者だという話だった。

そんな安井が目をつけたのは、心の担当であった東江だった。安井の説得に「新人の心につくより、ベテランの安井についた方が早くデビュー出来るのでは」と考えてしまう東江。「選ぶのは君だ」という安井の言葉に、東江は大学を休学して漫画家の道を進むことを決めた。そして後日、東江は心に「担当を変えたい」という連絡をする。東江が自分の担当から離れてしまった事にショックを受けた心だったが、これからも彼女を応援し続けようと決めるのだった。

一方、『バイブス賞』に応募した中田の漫画の編集部内での評価は真っ二つで、審査は難航していた。しかし、和田編集長の「見たことないモノが載っているのが、雑誌の面白さだ」という言葉に中田の漫画を載せることを決めた編集部。『バイブス賞』の新人である、中田の漫画に対する世間の評価は「絵は下手だが面白い」という良いものだった。自分の漫画が載った雑誌を手にした中田はプロの道の厳しさを実感し、改めて漫画の描き方を学ぶ為、三蔵山のアシスタントになることを申し出る。

『重版出来!』の登場人物・キャラクター

興都館『バイブス』編集部

黒沢心(くろさわ こころ)(演:黒木華)

興都館・コミック誌『バイブス』編集部・新人編集者。女子柔道でオリンピックを目指すもケガの為、断念する。しかし、柔道家を目指すきっかけとなった漫画『柔道部物語』を思い出し、自分もワクワクする漫画を作ってみたいと編集者を目指す。小柄な体格だが屈強な腕っぷしは健在で、入社試験の際は社長を変質者と間違え投げ飛ばしてしまう。みんなからは『小熊』の愛称で呼ばれることもある。実直な性格で担当する漫画家には親身に対応、優しさと強さを兼ね備えた新人担当者。

五百旗頭敬(いおきべ けい)(演:オダギリジョー)

『バイブス』編集部の編集者。心の先輩。新人教育を任されつつも、多数の漫画家を抱える忙しい編集者。心に的確なアドバイスをくれる。

和田編集長(演:松重豊)

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