波うららかに、めおと日和

波うららかに、めおと日和のレビュー・評価・感想

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波うららかに、めおと日和
9

ほのぼの、うららかなる恋愛譚

西香はちが描く『波うららかに、めおと日和』は、海軍中尉である江端瀧昌(えばた たきまさ)とその新妻である旧姓・関谷なつ美、2人の関係を緩やかに描いた昭和初期を舞台とした恋愛物語。
女性読者からすると「結婚式を写真で行わせるという非道極まりない男」という形で話が始まるのだが、実際は感情を素直に表現することに慣れていない無骨な男性が、朗らかでかわいらしい奥様に骨抜きになっている様子をニヤニヤと楽しむ作品である。

2人は少しずつ関係を深めて一歩ずつ本物の夫婦となっていくのだが、その様子が大変かわいらしい。瀧昌はなつ美のことは大切だと思うものの、それを表現する術を持たないため、ぶっきらぼうになってしまう。なつ美は瀧昌のことが分からないながらも素直に、そして不器用に寄り添っていく。
そんな中お互いがお互いを一所懸命に思いやりながら進むストーリーには、心が温まらずにはいられない。

不器用同士のやりとりは見ていて面白いほっこりとする。序盤にあるエピソードで、お互い異性を名前で呼んだ経験すらない中、相手の名前を呼ぼうとするやり取りにはどうしても口角があがってしまう。大人2人がまるで中学生のような恋愛を展開していくのだ。
そしてこの物語のキーとなるのはなつ美の素直さである。その素直さに瀧昌は惹かれ、時に勇気をもらう。

しかし、この話は単にほっこりするだけではない。海軍という仕事の特性上、瀧昌はなつ美にいつ帰ってくるのかを伝えられない。この遠距離イベントが定期的にやってきて、関係性が変わるにつれて離れ方も変わり、胸の締め付けられ方も変わってくる。しかし、常に読後感は心地良い。
ほのぼのな話だと刺激が足りないが、かといって安心して読みたい方は是非読んでみていただきたい。ただしニヤニヤが止まらないので、読む場所は考えることをお勧めする。