9-nine-そらいろそらうたそらのおと(9そらいろ)のネタバレ解説・考察まとめ

『9-nine-そらいろそらうたそらのおと(9そらいろ)』とは、株式会社クリアレーヴのゲームブランド、ぱれっとによって制作された恋愛アドベンチャーゲーム。シリーズ4作と新章からなる『9-nine-(ナイン)』シリーズの第2作目となる本作は、主人公の妹、新海天に焦点を当てている。物心ついたころから実の兄である翔に恋愛感情を抱いているも、それを隠し続け、仲の良い兄妹として振る舞い続ける天。幸せな未来に向けて歩む2人の行く末を描くも、一つの判断ミスでプレイヤーを絶望に追いやる衝撃作となっている。

『9-nine-そらいろそらうたそらのおと』の概要

『9-nine-そらいろそらうたそらのおと(9そらいろ)』とは、ぱれっとが開発した恋愛アドベンチャーゲームであり、ぱれっととして14作目の作品となる。『9-nine-』シリーズの第2作目として発売された本作は、ヒロインの1人であり、主人公の実の妹である「新海天(にいみそら)」に焦点を当てたストーリーとなっている。
18禁となるWindows版が2017年4月28日に、Steam版が2019年2月1日に発売され、2021年4月23日にシリーズ4作品と新章をまとめた全年齢対象版のコンプリートパッケージが発売された。また、『9-nine-新章』も同日にDMM GAMESにてダウンロード配信されている。

舞台となるのは、学園都市であること以外になんの特色もない街である白巳津川市(しろみつがわし)。街興しに励むも失敗続きのこの街に、数々の怪奇事件が舞い込む。大きな地震により白蛇九十九神社(はくだつくもじんじゃ)に祀られていた神器が破損し、並行世界から不思議な装飾品である“アーティファクト”が流入する。そのアーティファクトが所持者に与える力を悪用した人体石化事件が発生してしまう。責任感が強く頼れる主人公の新海翔(にいみかける)は、正義感の強いしっかり者の九條都(くじょうみやこ)が事件の解決のために動くことを知り協力を申し出る。そこに天真爛漫な妹の新海天(にいみそら)も加わり、3人は連続石化事件の調査を始めることとなるのであった。
本作のキャッチコピーは「——忘れられないこと、忘れてはいけないこと。」。

前作に引き続き、終始美麗なグラフィックからは想像ができない過酷なストーリーは、多くのプレイヤーの心を掴んだ。前作の謎を解決しながらも新たな謎が発生していく本作は、続編を非常に期待させる作品となっている。

『9-nine-そらいろそらうたそらのおと』のあらすじ・ストーリー

日常から非日常へ

翔に背中のスティグマを見せる天

主人公の新海翔が住む街である白巳津川市がスポンサーとなり、地域振興を目的として製作された『輪廻転生のメビウスリング』というアニメがあった。その放送に合わせて無理矢理作られた“春のメビウスフェス”は、地元住民の圧倒的不支持を無視して毎年開催されているも、大きめの地震が発生したことによりその年のフェスは中断となる。フェスの会場でありアニメの聖地でもある白蛇九十九神社に奉納されていた神器が、その地震で破損してしまった結果、翔の世界は異世界と繋がってしまった。

それからというもの、人が石化する怪事件や、翔が通う学園の生徒が不可思議な炎を校舎に放ち、火の海にした怪事件が発生する。その燃えさかる炎を超能力で鎮火したクラスメイトの九條都や、翔の前に現れた珍妙な異世界の住人ソフィーティア(以下ソフィ)など、超常現象の数々を目の当たりにした翔は、この現実を信じざるを得ない状況であった。
すべての事件は“アーティファクト”と呼ばれる不思議なアクセサリーが、異世界から翔の世界に流出したことで起こったとされ、流出したアーティファクトの数は不明であることと、アーティファクトを所持する者はアーティファクトユーザー(以下ユーザー)と呼ばれ、翔自身も無自覚ではあるがなんらかのユーザーであることをソフィから説明を受ける。人体石化事件の犯人は捕まっておらず、他にもアーティファクトを悪用する者が現れることによりさらなる犠牲者を生む可能性を危惧した翔は、アーティファクトにより他人の物を奪う能力を授かった都と協力し、アーティファクトの力を正しく使わんとする仲間を探し始める。そこに翔の妹である新海天もユーザーであることが判明する。その能力とは自分の気配を消せるというものであるも、翔には効果がないようであった。そんな天も仲間に加わり、石化事件の犯人探しとアーティファクトの回収に協力することとなる。
翌日、待ち構えていた天と登校途中、10人ほどの男子生徒とその中心に1人の女子生徒を捉える。その“逆ハーレム集団”はもはや登下校中の名物となっており、男子の数も日に日に増えているようであった。その女子生徒を初めて見たときは、男子たちからのアプローチに困惑し怯えているような様子であったが、今ではすっかり女王様のように振る舞っていた。

1人暮らしで外食中心となっている翔の食生活を心配した都は、翔の部屋で食事を作ることを提案する。そこに天も同席し、都の作る食事を囲みながら石化事件の犯人を捕まえるための作戦会議を行う。『輪廻転生のメビウスリング』のファンサイトである“アガスティアの葉”内のなりきり掲示板に、本物のユーザーが紛れ込んでいる可能性があると考えた。特に“エデンの女王”と名乗る人物がフェスの翌日から頻繁に掲示板に書き込みを行っており、その口調が登下校中に出くわす逆ハーレム集団の女王様によく似ていたことから、天はその掲示板を毎日監視していくことに名乗りを上げた。その日は週末にて、天は翔の部屋に泊まることとなり、アニメ『輪廻転生のメビウスリング』を視聴しながら、成瀬先生に提供してもらった神社の歴史の資料を読み漁り土日を過ごすのであった。

リグ・ヴェーダとの対立

リグ・ヴェーダの3人。左からゴースト、司令官、春風

月曜日になり翔の部屋から天と登校中、相変わらず逆ハーレムの集団も学園へ向かっていた。能力を使ってそこに紛れ込んだ天は、そのまま集団と一緒に登校していく。放課後に都も含めた3人で、都がアルバイトをしている喫茶ナインボールに集合し、天が1日尾行を続けて得た情報を共有する。中心の女王様の名前が香坂春風(こうさかはるか)、ユーザーであることは確実で、朝は高飛車で女王様のように振る舞っていたが、席に着き落ち着いた途端、お喋りもせず行儀良く着席していた取り巻きの男子たちが急に普通に話し出し、誰も“香坂先輩”のことを気にしなくなるという不自然な光景を目の当たりにしたことを話す。そして、アガスティアの葉の管理人である司令官(しれいかん)と個人的に連絡を取り合っており、力がうまく扱えず勝手に発動してモテすぎてしまう、と相談している所を目撃する。香坂先輩はその司令官と司令官の知人のユーザーの2人と今日会うことを約束しており、場所を把握していた天は能力を使用して単独でそこに向かい、翔と都はナインボールで待機することとなった。その後天からの着信があったものの、謎の男の声で「白蛇九十九神社に来い。そこで話そう。妹を傷つけるつもりはない」と告げられ、一方的に電話を切られるのであった。

都と共に急いで神社に向かうと、そこには天の他に、電話の声の男と香坂先輩とフードを目深に被り顔を隠した女が立っていた。その男は香坂先輩のことをエンプレス、フードの女をゴーストと呼び、自分は“リグ・ヴェーダ”の長であり、司令官だと名乗る。“リグ・ヴェーダ”とは、ユーザーの理想郷作りが目的の組織であり、そのためには力を使うこともいとわないと話す司令官は、翔たちを組織に勧誘する。翔は人殺しを容認するような組織には手を貸せないことを告げると、司令官は翔たちを敵とみなし能力を使用して排除を試みようとする。そのとき、翔の背後から「与せぬ者は暴力で排除する。野蛮な思考」と知らない女の声が聞こえる。その女は、ナインボールの常連であり、いつもパフェを食べている他校の女生徒であった。ナインボールで翔たちの話を聞いていたというその女生徒は、自分もユーザーであることを告げ、司令官に対して「人々の平穏を己が欲望のために踏みにじらんとするならば!その野望は私たち“ヴァルハラ・ソサイエティ”が打ち砕く!」と宣言する。そこに自分たちも含まれていることに気付き困惑する翔たちであったが、盛り上がる司令官と女生徒のやり取りは、お互いの空想ワードをぶつけあって奇跡的に会話が成立している状態で、完全に厨二病同士の会話であった。その会話をゴーストが「ユーザーを4人も発見できただけで十分だろ。今この場でやりあうのは無駄だ」と遮り、香坂先輩も「暴力は嫌いですの。喧嘩がしたいのでしたら、わたくしがいないところでお願いしますわ」とあきれた声で話す。それにより司令官は「今宵はここまでにしよう」と翔たちに告げ、去っていくのであった。去り際、翔に向かって「夜道には気をつけろよ、お兄ちゃん?」と不気味な笑みを浮かべ呟くゴーストに、翔は背筋が凍り付いた。2人の冷ややかな態度から、司令官の暴走であり決して同調しているわけではないと感じていたが、あのゴーストという女も人を傷つけることなんてなんとも思っちゃいないことを翔は感じ取るのであった。

その後、なにも話すつもりはないと去って行こうとする他校の女生徒に助けてくれたお礼としてパフェを奢ると、その女生徒は結城希亜(ユウキノア)と名乗った。ナインボールで翔たちの会話を聞き、同じユーザーであるものの悪人の可能性もあると警戒をしていたが、リグ・ヴェーダとの対峙でそれが否定されたため助けに入ったことを明かす。しかし司令官とのやり取りはその場のノリも含まれていたため、巻き込んだことを謝罪した希亜は、自分1人でリグ・ヴェーダとの決着をつけると話し、去ろうとする。せめて連絡先だけでも、と提案した翔は希亜と連絡先を交換し、希亜が去ったあと都もナインボールをあとにした。

翔は終始俯いたままの天に何があったのか問うと、能力を使っていたのにゴーストにだけ見つかってしまったことなど経緯を少しずつ説明し、「調子に乗って、迷惑かけて…ごめんなさい」と目に涙を浮かべ、静かに謝罪するのであった。「無事でよかった」と話す翔に天は少しずついつもの調子を取り戻すも、その日は弱気になっている天が眠りに落ちるまで、翔は天の手を握り続けた。天の安らかな寝顔を見た翔は、自分たちに敵意を向けこれ以上天を怯えさせるつもりなら、自分がリグ・ヴェーダを潰す、と誓うのであった。

リグ・ヴェーダの正体

翌朝、通学路で待ち構えていた香坂先輩は珍しく取り巻きを従えておらず、翔たちに何か言いたそうにしながら、天に手紙を押し付けて去っていく。2人でその手紙を見ると、「昨日はごめんなさい。私では止められませんでした。話したいことがあるので、よければ連絡ください」と書かれており、香坂先輩の連絡先が添えられていた。1日メッセージのやり取りをした天は、話したいことがあるから直接会いたいとの誘いに迷いつつも、メッセージから敵意は感じないことを理由にナインボールで待ち合わせることとなり、アルバイトの都とともに向かうのであった。香坂先輩から男性が苦手なので同席不可と言われた翔は、ちょうど希亜から話したいことがあると連絡があり、公園で待ち合わせることとなった。その後のリグ・ヴェーダに関する情報交換をし、希亜が隠し撮りしたリグ・ヴェーダの写真を送信してもらい解散したあと、翔はナインボールへ向かう。自分を異常なコミュ障だと話した香坂先輩は「男の人がいるともう1人の自分に頼ってしまい、女の子なら頑張れると思ったけど、やっぱり無理そうだから、ごめんなさい帰ります」と10分ほどの滞在でナインボールをあとにしていた。それでも悪い人ではなさそうだと天は話すも、なにが話したかったのかはわからずじまいであった。
天は実家へ帰り、翔は1人部屋に戻るとソフィが姿を現す。ユーザーを4人見つけたことを報告すると、「4人…この枝は随分と展開が早いわねぇ…。別の枝ではなにも進展していないのに。意外と天が優秀だったのかしら。そばに置いたのは正解だったわね」と呟く。翔は敵対している2人のユーザーを特定する手伝いを持ち掛け、それを了承したソフィは歪んだ空間に消えていった。

香坂先輩と交流を続けるなかで、司令官は香坂先輩と同じクラスの“高峰(たかみね)くん”であることが判明する。香坂先輩のもう1人の自分が自由に能力を使える世界に興味を持ち、なし崩し的にリグ・ヴェーダに参加することになったことを知る。そのため翔はこちら側の仲間にならないか打診するも、もう1人の香坂先輩により「あなた方に協力するつもりはありませんが、敵対するつもりもありませんの」とはぐらかされてしまう状態であった。

そして、翔の友人である与一(よいち)が広く交友関係を持っていることから、高峰の名前と写真を出し知っているか尋ねると、「蓮夜(れんや)じゃん」と反応がある。与一と高峰は幼馴染であるも、今は連絡先を知っている程度の仲であることがわかった。後日、与一が高峰の計らいでゴーストとエンプレスを紹介してもらうことを知った翔は、同行の誘いは断るも当日に接触を図る。翔の読みが当たり与一とリグ・ヴェーダに接触することができるも、高峰が警戒し一瞬でその場を去る。その際、その場に残ったゴーストが翔に向かって左手の甲を向けた途端、そこにスティグマが浮かび、何かが翔の頬を掠めるのであった。その様子を見ていたソフィから「フードのあの子に接近しないように。あの子はアーティファクトを複数持っている。魔眼を持っているのは限りなくあの子。あの子には決して近づかないこと。あなたたちの戦う相手じゃない。いいわね?」と警告を受けるのであった。

ゴーストに対抗する天

ゴーストにアーティファクトの力を放つ天

天と夕食を共にしたあと、変化のない毎日に気が緩んだ翔は、石化事件のあった公園まで足を運ぶ。ベンチに座り、今までの出来事に思慮を巡らせていた翔であったが、顔を上げると目の前にゴーストが佇んでいた。まっすぐ家に帰らず、迂闊な行動をしてしまった自分の考えが甘かったことを自覚した翔は、ゴーストを刺激しないよう後ろ手に回る。そんな翔の態度を見たゴーストも、態度を改め今までの非礼を詫びる。ゴーストから敵意を感じなくなったことに戸惑う翔であったが、「これからはお互い干渉しないようにしようぜ。じゃあな」とその場を去ろうと背を向けたゴーストに気が緩んでしまう。その瞬間「たった数分話しただけで警戒解くなよ」と呟いたゴーストの頬にスティグマが浮かび、妖しく光る眼で翔を捉えた。翔は身動きがとれなくなり、ゴーストから視線を外すことができなくなる。右足と右手の先の感覚がゆっくり失せていき、石となりつつあった。「お前のアーティファクトが欲しいだけで、お前に対してなんの感情もない。ただユーザーだから殺す。お前が終わったら次は妹だ」と翔に告げ、能力を一層強くかけようとした途端、翔の視界を黒い影が横切った。その途端に翔の身体は動くようになり、息苦しさから解放された。横切った影はソフィであり、ゴーストと対峙する。しかし、ゴーストが手を払うような動作をした途端、巨大な矢が出現し、風を切り裂いてソフィを貫いた。ソフィが消え、再び翔を石化しようと試みたゴーストであったが、「…また邪魔が入った」と後退する。その視線の先には、虚勢を張った瞳で必死にゴーストを睨み、震えそうな足を精一杯踏ん張っている天が立っていた。ゴーストの強い殺意にたじろぐ天であったが、「お兄ちゃんは殺させない!お前なんか消えちゃえ!」と左手を突き出す。天の全身にスティグマが浮かび上がる光景を見た翔は、アーティファクトの力に飲み込まれ暴走してしまうことを恐れ、「やめろ!力を使うな!」と天を止めるも、天の中心に渦巻いた力の流れはゴーストに放たれた。力に飲み込まれたゴーストの身体は透けていき、景色に溶けていく。「お前は必ず殺す」と翔を睨みつけたゴーストは、完全にその場から消えてしまうのであった。

天は手足の一部が石化した翔に駆け寄り、どうしようと慌てふためいていると、「時間はかかるでしょうけど、ちゃんと治るわよ」と消失したはずのソフィが現れる。この姿は幻体だから死んだりしないと説明したソフィは、石化した部分に衝撃を与えないようにしながら翔を家まで運ぶよう天に指示する。

天に存在感を操作されたゴーストはこの世界に存在することすらできなくなった状態であり、死んではおらず、天が本気で消し去ろうとしていたら自分たちの記憶からも消えているとソフィは話す。そして天の全身にスティグマが浮かんでいたことは天自身無自覚であり、体調にも変化がないと話すも、急激なスティグマの浸食は身体に相当な負荷となっているからしばらく能力の使用は控えるようソフィは天に伝え、歪んだ空間に消えていった。

天の変化

石化が徐々に解け始めるも、学校を休む日が続いた。母親に風邪で休むことを学校に連絡してほしいと電話で伝えた際、母親が翔の彼女が家に来たと話す。心当たりがない翔は、特徴や状況を聞き出していくなかで天が一緒じゃなかったか尋ねると、「あぁそう!そらちゃんよ名前!可愛い彼女ね~、印象薄いけど」と母親が話し始めたため、翔はひどく動揺する。用件を伝え、電話を切り、急いでソフィを呼び出した。天自身が忘れられている状況が力の暴走によるものだと悟った翔は、ソフィと協力し、学校をサボっていた天を探し出す。クラスメイトや親に忘れられたことを話し始めた天は、兄である翔には覚えてもらえていたことにひどく安堵する。翔の部屋に一緒に帰った天は、安心した様子で深い眠りに就いた。

翔はソフィに強制的に能力を手放すことができる霊薬のアンブロシアを催促するも、できるまでまだ数日はかかるからそれまで天を支えるよう促す。「情緒不安定な状態の人間は、話が支離滅裂になって会話が成立しなくなったり、逆に感情が乏しくなり外的刺激にまったく反応を示さなくなることもあり、支え続けるのは非常に困難。天の心が折れ、消えてしまいたいとでも願ってしまったら、きっとあなたも天を忘れる。十二分に気をつけなさい。何かあれば力になる」そう言ってソフィは消えていった。自分にできることは少ないけど、天がアーティファクトの呪いから解き放たれるそのときまでそばに居続け、天を絶対に忘れないことを誓うのであった。

天の想いと願い

天の傍に居続けて数日たったある日、翔は出先で天を一瞬認識できなくなっていたことに気付く。天の力の暴走が悪化していることに恐怖を覚えるも、翔は天に対して気丈に振る舞った。しかし、天自身も力の暴走が確実に進行していることを自覚しており、それでも「お兄ちゃんだけいればいい」と翔の前では笑顔を作っていた。
次の日、石化は完全に解けたものの天の傍を離れられないという理由から、風邪が長引いていることを学校に連絡してもらうため母親に電話をすると、「間違い電話ではありませんか?うちに息子なんていません」と切られてしまう。天と一緒に自分も消えかかっていることに気付き呆然としていたが、天に呼ばれ我に返る。「お兄ちゃんどうしよう」と泣きそうな目をした天の右手がわずかに透けており、その手から落ちたトーストも半透明なままであった。自分だけでなく、暴走した力が触れているものや身に付けているもの、天に関わるものすべてを浸食し始めていた。翔も消えてしまいそうになっていることに気付いた天は、「お兄ちゃんが消える前に自分が消えちゃった方がいいね」とうつろな瞳で呟いた。それを聞いた翔は必死に天に声を掛け、天の願いをなんでも叶えると訴えた翔に、「お兄ちゃんの恋人にしてほしい」と天は話した。あまりにも予想外な願いに言葉を失う翔であったが、天は物心ついたときから兄へ恋心を抱いていたことを話し始める。「絶対に言わないつもりだったけど、あたしが消えたらこの告白もお兄ちゃんは忘れちゃうから、消える前に思い出をもらってもいいよね。あたしをお兄ちゃんの恋人にしてください」と話す天の願いを、翔は受け入れるわけにはいかなかった。

そんな天に対して、翔は「ふざけんなよお前。なんで消える前提でそんな話してんだよ」と怒気をはらませる。「あたし迷惑しかかけないから消えちゃった方がいいって…」と話す天に、翔は「んなこと思ってねぇんだよ!」と怒鳴りつけた。翔は「そういう大事なことは元気になってから言え!そうしたら考えてやる!俺の記憶が消えること前提の願いは断固として断る!やけくそなこと以外ならなんでも聞いてやるから」と天を諭す。空腹を訴えた天に朝食を用意し、お腹を満たした天は何かが吹っ切れたように「なんかだるいから寝る!」とベッドに倒れこむ。やけくそ気味ではあるも、その声には活力がみなぎっていた。
天の状態が悪化することなく過ごしているとソフィが現れ、「完成したわ。間に合って良かった」とアンブロシアをテーブルに転がした。それは注射器型となっており、翔の手によってそれが打たれた天は、気を失うのであった。今後のことを前向きに考えていた翔に「良いニュースがある」と話したソフィは、ゴーストが目覚めたことを報告する。それはあまりにもタイミングが良すぎており、こちらの状況を把握していると考えるのが妥当であった。そのゴーストが神社にいることをソフィから聞いた翔は、「そこに向かうから協力をしてほしい。俺にアーティファクトをくれないか。あいつに対抗できる力を俺に貸してくれ。天が目覚めたときに全て終わったと告げたい」と話す。その真剣な翔を見たソフィは、液体状になったアーティファクトを渡した。それを体内に取り込んだ翔は、眠りに就いている天にすべて終わらせてすぐ戻るからと告げ、ゴーストの元へと向かうのであった。

リグ・ヴェーダの終焉

神社で佇んでいたゴーストは臨戦態勢の翔に槍による攻撃を仕掛けるも、翔のものとなった炎のアーティファクトによってそれは焼き尽くされた。神社に向かう道中ソフィに「ユーザー同士の戦い、特に肉体に損傷を与えられない能力を有した者同士の戦いは精神力の勝負になる。あなたの炎は魂を焼く。あの子の槍は魂を貫く。あなたたちの肉体は痛みこそあれど傷つかない。魂の強さは心の強さ。心を強く持てば魂も揺るがない。つまり、どちらが先に相手の心を折るか、そういう戦いになるわ。勝機があるとすれば、そこね。心を強く。何者にも屈することのない、折れない心を。そうすればあなたは負けない」と教えられた翔は心を強く持ちゴーストに挑むも、その力の差は歴然としていた。ソフィに撤退を提案されるも、ゴーストの心を折るべく翔は立ち向かい続けた。しかしそれも限界が訪れようとしていたとき、ゴーストが膝から崩れ落ちる。突然の出来事に事態を飲み込めない翔であったが、ゴーストの背後に目を向けると、そこには柔らかに微笑む香坂先輩が立っていた。司令官からの連絡でゴーストの居場所を把握し会いに来たらそこに翔がいたと話す香坂先輩は、アーティファクトの力によってゴーストの動きを封じる。そうして翔はゴーストを捉え、ゴーストは制御できなくなった自らの石化の能力により石と化し砕け散った。

安心したのも束の間、そこに高峰が現れる。石像となり砕けたゴーストを見た高峰は「彼女は私の希望だった。すべてのユーザーの母となる人だった!私は貴様らを断じて許さん!」と頬にスティグマを浮かび上がらせ翔を睨みつける。それは紛れもなく魔眼の能力であり、翔の指先の感覚がなくなっていく。香坂先輩が盾となり石化は指先のみで済むも、能力の使い過ぎで身体が限界となった香坂先輩はその場に倒れこんでしまうのであった。自分が何とかしなければと踏ん張る翔の元に「あなたは休んでおきなさい。大丈夫よ、手は打った」とソフィが現れる。その直後、高峰が両目を押さえ苦し気にうめいた。「あなたの視力を奪いました!もう魔眼は使えません!」と都が叫び、「ジ、オーダー…アクティブ…パニッシュメント」と希亜が唱えた途端、高峰が見えない力に拘束される。そしてその背後から天が高峰にアンブロシアを注入し、高峰は深い眠りへと落ちたのであった。

エピローグ

翔と一緒に登校する天

天の身体からスティグマが消え、アーティファクトの呪いからは完全に解放された。魔眼に関して不明点や疑問点がまだあるものの、ゴーストが消滅したことによって当面の間は平和だから安心していいことがソフィから伝えられた。翔の部屋に集まっていたみんなで苦労をねぎらい、香坂先輩を新たな仲間として歓迎し、後日打ち上げをすることを約束してその場は解散となる。

改めて気持ちを打ち明けた天と、まったく今まで通りの兄妹関係に戻ることはもうできないと感じている翔であったが、それが悪いことには思えていなかった。いつも騒がしい天が自分の心の支えになってくれており、自分にとって大事な存在であるということは紛れもない事実であるからだと翔は感じていた。お互い道を踏み外してしまったと感じているからこそ、お互いを支えあって、これからもずっと一緒に歩いて行こうと誓う翔であった。

『9-nine-そらいろそらうたそらのおと』のゲームシステム

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nicholas09134
@nicholas09134

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